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沖縄で生活していると見逃してしまうことが、外国にいると見えてくるということなのだろう。

[ 宮城一春(編集者・ライター) / 2014.02 ]

2013年09月発行
絵と文:宮良貴子
沖縄タイムス社 刊
新書判/157ページ
1,200円(税抜)
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外国留学記 フランス便り

絵と文:宮良貴子

旅は面白い。

旅は非日常である。

非日常だからこそ、楽しく、面白いのが旅である。

しかし、非日常が日常となってしまう留学はどうなのだろう。普段生活している場所とは違う場所へ行き、限られた期間の中で生活をしていく。
旅行気分でもあるし、普段の日常生活でもある。
さらには勉強するための留学であるので、生活の中心は学ぶことである。
しっかりとした気持ちを維持していくのは、並大抵の努力ではできないことであろう。

何気ない日常という表現があるが、何気ない日常が異国の地であるというのは、やはり辛いことが多いのではないかと、何十年と生まれ育った沖縄で生活する筆者は思うのである。さらには、もう勉強なんてしたくないと思うのである。

しかし、留学する方は違う。

目的意識を持っている人は違う。

本書を読んでいくと、自ら進んで留学(いやいやながら留学する人はあまりいないとは思うが……)する人は、心構えが違うのであると思わされる。

また、人との出会いを楽しんでいる様子がよく見えてくる。言葉を通してのコミュニケーションではなく、芸術を通してのコミュニケーションならではの出会いが、本書には溢れている。留学生活を楽しんでいることが、よくわかる文章である。

そして外国(本書の場合はフランス)から見た沖縄が見えてくる。沖縄で生活していると見逃してしまうことが、外国にいると見えてくるということなのだろう。

風土の違い、人種の違い、生活環境の違いなど、多岐にわたっている。そこからも、著者が留学生活を楽しんでいる様子が、よく伝わってくる。同時に、沖縄と変わらないところもある。人々の表情、家の表情、空気表情、それもさまざまである。

しかし、本書で驚かされることは、この文章が書かれたのが1971年3月から1973年の3月にかけて沖縄タイムス紙上に連載されていた記事。沖縄の復帰前後の話なのである。

歴史は、あとにならないと時が理解できないとはよくいわれることであるが、当時の沖縄はまさしく激動の時代。

アメリカ世からヤマト世への移り変わりで、混沌としている時代。県内の時代状況を書いた書には出会うが、その当時の外国の雰囲気を伝える県産本はあまりないように思う。その意味でも貴重な内容の書だ。

そして、外国にいながら沖縄の行く末を案じるウチナーンチュの思いもくみ取れる内容となっている。

ましてや、外国旅行でさえ珍しい時代。著者の昂揚感と不安さは、今で理解できないものであっただろう。逆にいえば、当時のウチナーンチュは、週に一回掲載される著者の文章に、外国の匂いや香りを感じながら読んでいたかもしれない。

それらをかんがみても、本書の内容は今でも新鮮である。年代や時代状況の説明がなければ、最近の留学生が書いた書であるといわれても納得するであろう。

考えてみると、風景や時代状況は変化しても、人間の営みや生活環境の変化はあまりないといえるのかもしれない。だからこそ、本書の面白さが、より深まっていくような気がする。著者のまえがきには、当時の文章に手を加えないで書籍化したとある。

留学という非日常の世界から描いた外国滞在記だが、根底には、今も変わらない人々の日常が描かれているのであるように思う。

留学志望の学生や、外国の雰囲気を感じたい人には一読を勧めたい一冊である。

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