年末回顧 2009(県内・出版)

琉球新報 2009年12月30日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(フォレスト編集長)

物足りなさ残る1年 新書、写真集に好著目立つ

今年の出版物は約三百点。不作と感じた昨年よりも百三十点近くの減となっており、さらに物足りなさが残った一年だったように思う。そのような県産本・沖縄本だが、今年を振り返ってみてみることにしよう。

まず、私が今年の県産本の中で質量ともにナンバーワンに推したいのが「あざみ屋・ミンサー記念事業」委員会『ミンサー全書』(南山舎)。ミンサーの歴史から民俗・芸能、そして現状や未来まで、まさしくミンサーのみで構成した一冊。ミンサーの奥深さや守り続ける人々の愛情までも感じられる好著であった。私たちは、このような素晴らしい伝統工芸を持っていることに誇りを感じるとともに、他の伝統工芸の数々にも思いを馳せることができる内容だった。

また、屋良朝博『砂上の同盟』(沖縄タイムス社)は、なぜ、沖縄に基地が集中するのか。著者が様々な人々へ問いかけ、米軍基地や再編問題に切り込んだ力作。まさしく時宜を得た書で、マスコミ人らしい冷静な視点で描いている。私たちは、いかに物事を知らされていないのかを痛感させられた。県内だけでなく、県外の人々へも是非読んで欲しいと思わせる書である。

ここ数年、旺盛な出版活動を行っている琉球新報社も印象に残る本を出版している。特に、現在の沖縄では最も筆力の乗っている与並岳生は、今年、薩摩侵攻四百年記念出版として『南獄記』を出版した。琉球処分前夜を描いた歴史小説で、与並らしい平易な文章と独特の与並史観で読者を魅了させた。今年の政権交代とイメージをダブらせて読んだ読者も多かっただろう。他に、琉球新報社編『栄光の軌跡』も、琉球ゴールデンキングスの栄冠の軌跡をいち早く発刊した。密着取材したマスコミならではの出版物といえよう。

喜久山守良『沖縄で楽しむ家庭菜園』では、家庭菜園に関する手引き書として、そして昨年好評を博した書の第二弾として、ももココロ『がじゅまるファミリー3・4』を出版して読者の支持を受けた。

自然分野で素晴らしい書を出版している新星出版は今年も佐々木健志・玉城照久・村山望『沖縄の鳴く虫』で健在ぶりを示した。わかりやすい文章と綺麗な生態写真で展開される本書は鳴き声を収録したCDを付録に付けて、視覚だけでなく、聴覚でも楽しませてくれた。

今年は新書の年ともいえる。前記の『砂上の同盟』もそうだが、他にボーダーインクはボーダー新書を刊行して、平川宗隆『沖縄でなぜヤギが愛されるのか』で、沖縄のヤギ文化をヤギへの愛情たっぷりに描き、小浜司『島唄レコード百花繚乱』では、島唄レコードの数々を収集家ならではの解説で紹介し、「島唄の神様」と称された嘉手苅林昌も思い入れのある文で描いている。県産本ではないが、小波津正光『お笑い沖縄ガイド』(NHK出版)、奥野修司『沖縄幻想』(洋泉社)も印象に残る新書であった。前書は、沖縄を笑いで明るく表現し、後書は、大好きな沖縄の変化をノンフィクション作家らしい視点で警鐘を鳴らしている。この二冊からは、これからの沖縄の辿るべき道が表現されているように思った。

今年は写真集に好著が目立つ年でもあった。特に伊佐實雄『大山ターブックヮ』(琉球新報社)は、現在でも大山ターブックヮで営みを続ける著者ならではの写真が掲載され、郷愁とこの自然の大切さを教えてくれた。嘉納辰彦・金城艶子『クーバミスタ アジマー』(沖縄キューバ友好協会)は、百年を迎えるキューバ移民の二世から四世までの写真を掲載に当地に生きる人々に流れる沖縄の血を感じさせる内容となっている。

ほかにも儀間進監修『楽しいウチナーグチ』(沖縄文化社)は、ウチナーグチの実践編ともいえ、楽しく学ぶことができ、観光客にもお勧めできる内容の書。究極のウチナーグチ実用書となっている。今年、新たな才能が生まれたことを感じさせる詩集『ひとりカレンダー』(ボーダーインク)が発刊された。トーマ・ヒロコが描く詩は、独特の感性に彩られており、これからの活躍を期待する詩人である。今年の山之口貘賞に相応しい詩集・詩人の登場である。

ほかに印象に残る本を列記してみる。中井精一、東和明、ダニエル・ロング『南大東島の人と自然』松山光秀『徳之島の民俗文化』(ともに南方新社)、松崎洋作、文 ゆたかはじめ『沖縄軽便鉄道』(海鳥社)などである。やはり、例年に比べ少ないという気がする今年一年の県産本・沖縄本であった。

今年は新聞の夕刊が廃刊となり、新聞社は紙面構成に苦労したと思うが、毎週日曜日の読書欄はいただけない。他紙が見開き二面を堅持しているのに比べ、新報では二面展開が月に一度だけ。あとは一面のみの掲載となっている。一面ではあまりにも情報量が少ない。日曜日に書評を読むことを楽しみにしている読者がいることを忘れて欲しくない。

(琉球新報社提供)

このページの先頭に戻る