年末回顧 2008(県内・出版)

琉球新報 2008年12月26日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(フォレスト編集長)

物足りなかった1年 沖縄本と県産本、消える境界

今年の出版物は四百三十点あまりで、昨年より微減といったところだが、内容は物足りない感のまま過ぎていった一年といえる。あえていうとすれば、今年は不作の年だった。そのような中、私が内容の質・量ともに他を圧倒したのが柏書房「沖縄空手古武道事典」(高宮城繁他)であった。空手や古武道に対するさまざまな疑問に親切丁寧に教えてくれるだけでなく、歴史や空手や古武道の定義にはじまり、現代的意義や顕彰碑の存在、技法・型のみならず、思想の系譜までを綴っている。それこそ、『事典』の名にふさわしい重厚な書であった。

また、書店売り上げや読者の話題を呼んだのは、集英社インターナショナル「誰も書かなかった沖縄」(佐野眞一)や角川書店「テンペスト」(池上永一)などの大手出版社からの本たちであった。前者はノンフィクション作家ならではの視線で沖縄の人々や事象を語り、これまで沖縄人自身が見えなかった、あるいは見ようとしなかった事柄を取り上げた、後者は琉球王朝末期の歴史を壮大な歴史・恋愛ドラマとして紙面化して見せた。

両者に共通するのは、プロとしての変わりない視点と、オリジナルを創作していくプロとしての矜持であったように思う。ぴあ「沖縄大好き検定公式ガイドブック」(沖縄大好き検定委員会)も検定試験の話題性もあって手に取られた方も多いだろう。しかし、これらの書は、販売部数や話題を呼ぶに相応しい書とは思うが、ウチナーンチュ自身、もっと批判的な目で見ることも必要なように思えた。

ほかに、岩波書店「海に沈んだ対馬丸」(早乙女愛)も、大人にも是非読んで欲しいと思わせる内容で、対馬丸体験者の当時の記憶を辿りながら、現在の姿も照射した好著であった。まさしく、今でなければ生まれなかった本といえよう。

沖縄の出版界に御願ブームを巻き起こした比嘉淳子が双葉社から「沖縄暮らしのしきたり読本」を発刊した。御願本の世界が奥深く、内容や編集がよければ読者は出版社にこだわらないことを教えてくれた。

このように、今年の沖縄関連書は、ヤマトの出版社による発刊物が印象に残る年であったといえるし、沖縄本と県産本の境界がなくなりつつように思える。また、これらの書は、新たな読者層の発掘を行うと同時に、固定読者層の支持も得ている。私自身、県産本の編集に携わる者として、考えさせられ、教えられることの多い本たちであった。

ここまで厳しいことを書いてきたが、もちろん県産本にも印象に残る本は多く出版されている。今年一番印象に残ったのが、沖縄タイムス社「『アメとムチ』の構図」(渡辺豪)であった。新聞連載時から注目を集め、書籍化が待たれた書であったが、略年表や詳細な注、資料など、編集に注意が払われており、注目に値する書であったと言える。また、県産本の読者では一番層の薄いと思われる中高年の男性を発掘したと思われる点でも評価されるべきであろう。私の中での今年No1の県産本である。

沖縄文化社「沖縄の自然歳時記」(安座間安史)も非常に内容の濃い書。地道にフィールドワークを積み重ねた著者の思いが伝わる好著。ススキ前線など初めて知ることも多く掲載されており、本を読むことの楽しさを知らせてくれた。多くの子どもたちを見つめてきた著者が子どもたちの世界を沖縄の素材を使ってフィクションに仕上げたフォレスト「しょうたとがじまる」(野原なをみ)も児童書ならではの面白さがあった。

ここからはざっと今年の県産本を概観していきたい。現在最も油の載りきった作家、与並岳夫は今年も新星出版「舟浮の娘・屋比久少尉の死」、琉球新報社「アカインコが行く」で健在ぶりを示した。

現場の教師ならではの視点で沖縄歴史を発信し続けている新城俊昭は東洋企画「ジュニア版 琉球・沖縄史」で、より易しく歴史をまとめている。

琉球新報社紙上で数多くの読者から支持されている「がじゅまるファミリー1・2」(ももココロ)も、読者ニーズに応えた書であり、続編が心待ちにされるココロ休まる書。琉球新報「沖縄列伝」、沖縄タイムス社「挑まれる沖縄戦」、「やわらかい南の学と思想」(琉球大学)、ボーダーインク「パパッとご飯しっかりご飯」(宮城都志子)、「誰も見たことのない琉球」(上里隆史)、「暮らしの中の栄養学」(尚弘子)、新星出版「普天間飛行場代替施設問題十年史 決断」(北部地域振興協議会)も印象に残った。

ほかに南方新社「奄美の人と文学」(茂山忠茂・秋元有子)は、私たち沖縄の人間が知らなかった奄美の文学の世界を見せ、「南西諸島史料集第二巻 名越左源太関係資料」(松下志朗)では、沖縄の歴史にも関連性のある人物に焦点を当て、丹念に資料を展開して功績や人物像を浮き彫りにして見せてくれた。

来年はどのような沖縄関連書が私たちを魅了してくれるだろうか、楽しみにしている。

(琉球新報社提供)

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