年末回顧 2007(県内・出版)

琉球新報 2007年12月27日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(フォレスト編集長)

充実した県産本 16冊発行ボーダーインク

今年の出版物は四百四十二点が沖縄タイムス社の出版文化賞において計上されている。今年は、昨年より点数は減ったものの、読み応え充分の本が生まれた年であったように思う。

特に、県産本版元の雄ともいえる琉球新報社・沖縄タイムス社・ボーダーインクが、近年になく質量ともに充実した書を発刊したことが印象に残る一年であった。この三社が健在であることは、他の版元にも刺激を与えたことは間違いないことだろう。その中でも、活躍が目立ったボーダーインクは「琉球列島ものがたり」(神谷厚昭)、「目からウロコの琉球・沖縄史」(上里隆史)の専門分野を易しくまとめた書から、「潤染URIZUN」(上西重行)まで十六冊の本を発行している。

今年、私が一番印象に残ったのは宮里千里「シマ豆腐紀行」(ボーダーインク)。著者の豆腐への想いが込められているだけでなく、シマ豆腐を通して沖縄へ想いを寄せる海外移住者の姿をも表現していた。また、日頃からシマ豆腐に親しんでいる豆腐のルーツ探しに熱意を燃やす著者の執念をも読みとれる書であった。新聞連載が書籍になることの面白さを改めて教えてくれた本であった。

私が感服した書が沖縄愛楽園自治会「沖縄県ハンセン病証言集 沖縄愛楽園編」。文字を大きくし、証言者の言葉のイメージを壊さないように構成され、読みやすさにも工夫されている。国の政策によって悲惨な状況に追い込まれたハンセン病患者の実態を知ると同時に、私たちの中に巣くう差別感をも反省させられる書であった。また証言者の方々の社会復帰をも願わずにいられない内容であった。

次に印象に残った本を版元別に挙げていこう。まず、これまでの固いイメージから脱皮した那覇市歴史博物館「戦後をたどる」(琉球新報社)。沖縄の地域史をリードしてき那覇市史だが、充実した内容はもちろんのこと、装丁や文章、レイアウトなど、読みやすさを重視した編集が印象に残った。豊島貞夫「記憶の中の風景」(琉球新報社)は、一九六〇年代~七〇年代の沖縄の風景を著者の優しい眼差しで表現した写真集。郷愁とともに忘れてはいけない原風景を教えてくれる好著であった。

琉球新報社は他にも寺島尚彦「ざわわ さとうきび畑」で、著者の創作に関わる姿勢や家族愛を描き、瀬長亀次郎「不屈 瀬長亀次郎日記医獄中編」で、亡くなってからも絶大な人気九を持つ瀬長さんの日記を関係者の解説を通して見せてくれる。他にも今年最大の関心事となった県民大会の写真集「沖縄のうねり」で、緊急出版という形で再現して新聞社としての底力を見せてくれた。

沖縄タイムス社も、外間守善「回想80年」で、現在でも沖縄学の発展に尽力している著者の学問へ対する情熱や関係する人々を愛情のこもった文章で表し、大城立裕「縁の風景」で、沖縄を代表する作家の健在ぶりを示してくれた。また、友利知子他「チャンプルーとウチナーごはん」は、レイアウト、写真、文章ともに、これまでの沖縄の料理本にはない高レベルな内容だった。沖縄の健康を考えるに最適な本が登場したといえるだろう。

また、勝連繁雄「琉球古典音楽の思想」は、古典音楽を琉楽として捉え、先人たちから現在にいたる系譜も含めて、思想にまで高めた好著であった。これまでにない内容の書を出版したのがタイムスの出版物だったといえる。

ニライ社も健在ぶりを示してくれた。船越義彰「琉歌 恋歌の情景」は、今年惜しくも亡くなられた著者の最後の書。船越氏の琉歌に対する造形の深さと、わかりやすい解説は、琉球文学への入門としても最適であろう。また、安次嶺馨「赤ちゃんから始める生活習慣病の予防」は、実用的な内容の他、見事な装丁で印象にも残る本であった。

自然関連書に強い版元としての評価を固めたアクアコーラル企画は、今年も湊和雄「沖縄の自然を楽しむ「昆虫の本」で沖縄の自然の豊かさと守るべきことを教えてくれた。

他に、食生活への不安とダイエットに興味のある方々へ大反響を呼び起こした宇栄原千春「沖縄カロリーブック」(えいよう相談室)、組踊の面白さを漫画の世界で再現してみせた大城立裕・漢那留美子「組踊がわかる本Ⅱ」(沖縄文化社)、また、ボーダーインクの太田良博著作集が「諸事雑考」で完結したことに感慨を覚えた。

平敷武蕉「沖縄からの文学批評」も文学や社会事象を通して沖縄を見る好著であった。むぎ社「スーコーとトートーメー」(むぎ社)、金城善「白銀岩の由来」(フォレスト)、たいらみちこ「オバアとマーガそばやへ行く」、宮良保全「与那国の民謡と暮らし」(あけぼの出版)、沖縄県子どもの本研究会「沖縄むかしむかし」、与並岳夫「南島風雲録」(新星出版)、平良一彦「おばぁから学ぶ健康の知恵」(新星出版)も記憶に残る本であった。

他にもたくさんの県産本や沖縄本が出版されたが、紙幅が尽きた。残念!

(琉球新報社提供)

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