年末回顧 2004(県内・出版)

琉球新報 2004年12月28日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(文進印刷編集者)

地域に根差した本 南山舎「八重山人の肖像」など

今年の出版物は四百四十一点が沖縄タイムス出版文化賞において計上されている。質量ともに傑作揃いであった昨年に比較すると、物足りなさを感じるが、それでも多岐にわたる分野で印象に残る本の多かった年でもあった。一方、沖縄関連書は一時期の出版量と質の高さから考えると、停滞気味であるような感がする。そのようなこともあって、本年末回顧は、県産本を中心にみていくことにする。

まず、今年の県産本で私が一番印象に残ったのが南山舎の刊行本。特に、今村光男文・石盛こずえ「八重山人の肖像」は、八重山の出版社らしく、八重山のさまざまな分野で活躍している人々を、印象深い表情の写真と、愛情を込めた文章で展開し、松田良孝「八重山の台湾人」は、国家と国境、そして人間の間で苦悩する台湾人の姿をジャーナリストらしい筆致で描いている。

そこに共通しているのは、八重山という地域に生きる人々を温かい眼差しで見つめ、地域に根差した書を刊行しているということ。昨年の「潮を開くサバニ」も同様であり、これからもどのような書を刊行していくか楽しみである。

■内容が充実した字誌
また今年は地域史に印象が残る本が多い年でもあった。読谷村史編集委員会「読谷村史戦時記録編」は、近代日本と戦争という俯瞰から始まり、沖縄戦を太平洋戦争の視点から論じ、体験記録や海外での戦争体験も収録されている大著で、記憶に残る沖縄戦関連書。他にも、教育という分野にスポットを当て、さまざまな資料を駆使した名護市史編纂委員会「名護市史・教育編」も印象に残る書であった。

そして、地域史の中で忘れてはならないのが字誌。今年は非常に内容の充実した年であったといえると思う。中でも、研究者レベルで字を見つめ、高度な内容と編集技術を示した西銘誌編集委員会「久米島西銘誌」、字民が一体となって編集に取り組み、これからの字誌の手本ともなりうべき内容を展開した与那覇字誌編集委員会「南風原町与那覇誌うさんしー」、区民の協力で、写真を中心に展開した島尻公民館建設記念事業期成会「伊平屋村島尻のあゆみ」などが記憶に残った。

これら字誌に共通していることは、生活者の息づかいが感じられるところで、地域の大切さや、歴史の重さを感じさせてくれる。ただ惜しむらくは、地域史のほとんどが簡単に手に入る状況にないこと。筆者が目を通していない素晴らしい内容の本も多く刊行されているに違いない。関係者で検討していただければ幸いである。

■沖縄の死生観語る
版元別にみると、ボーダーインクは今年も旺盛な出版活動ぶりであった。太田有紀「死を想い生を紡ぐ」は沖縄びとの死生観を語り、人間はいかに生きていくかということを考えさせられる好著で、こもりかおり「いのちのメッセージ」は、性はタブーではなく、社会や大人たちがしっかり伝えていかなければならないことを教えてくれた。ほかにも泡盛を通して沖縄の文化を感じさせてくれる萩尾俊章「泡盛の文化史」も印象に残る書であった。

琉球新報社も充実したラインアップであった。謝花長順「貘さんおいで」は伝説的ともいえる山之口貘が紙面を通してよみがえってくる感じで、貘ファンにとっては忘れられない一冊。併録の『指笛の甲子園』も面白い内容であった。

昨年「百十踏揚」で強烈な印象を残した与並岳夫は今年も「思五郎が行く」を著し、上下巻という頁数もさることながら、詳細な資料探索と登場人物たちの生き生きとした姿、そして大胆な仮説で芸能に思いを寄せる人々を驚かせてくれた。今後の執筆が楽しみな作家の登場といえるだろう。また、山内昌尚「戦後通貨変遷史」、「『沖縄独立』の系譜」も印象に残る。

■自然関連に好著
久々の大型本「沖縄・暮らしの大百科」を刊行した那覇出版社も活躍ぶりが目立った。ニライ社も新里恒彦「ある不登校児の旅立ち」で健在ぶりを示し、藤野雅之「サトウキビ援農隊」で、これまでに見えてこなかった援農隊の活動を教えてくれた。

堅実な出版活動を続けるゆい出版は今年は松田米雄「リマ紀聞」で県産本の可能性を示し、沖縄文化社は長嶺操・徳元秀隆「沖縄の伝説散歩」で、地域素材の面白さを見せてくれた。時空を超え、祭祀や島人を通して波照間の魅力を伝えてくれたアウエイハント夫妻「写真集波照間島」の榕樹書林、沖縄タイムス社も、上原直彦「浮世真ん中」は、芸能や言葉・人物から沖縄の魅力を語ってくれた。

今年は自然関連書の好著が多い年でもあった。屋比久壮実は「植物の本」「磯の生き物」二冊を上梓し、丁寧でわかりやすい解説と植物や生き物の特長を捉えた写真で素晴らしい自然界の様子を魅せてくれた。もう一冊、沖縄生物教育研究会「沖縄の生きものたち」は、これまでにない内容のフィールドガイドで、植物から家庭内の小動物までを展開しており、机上でも野外でも楽しませてくれる。今年の特筆すべき内容の書といえよう。

今年も楽しませてくれた県産本。来年はどのような本が出版されるか楽しみである。

(琉球新報社提供)

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