年末回顧 2003(県内・出版)

琉球新報 2003年12月25日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(編集者)

近年まれにみる傑作ぞろい 印象に残る海人の叡智

今年の出版物は四百六十四点が沖縄タイムスの出版文化賞において計上されている。物足りなさを感じた昨年に比較して、百五十三点も多く出版されており、今年の沖縄本は質量ともに、近年稀に見る傑作揃いであったといえよう。

ただ、本稿を書くに当たって断っておきたいが、今年は、県産本を読むのに忙しく、沖縄本全体を俯瞰することができなかった。従って、本年の出版の年末回顧では、県産本のみにとどまることをお許しいただきたい。それぐらい今年の県産本は豊作年であったと断言したいのである。

■二十数年がかりの大著
その観点から県産本を見ると、まず挙げたいのがボーダーインクの出版活動。南研作・南島司「まじめになるのはきつい!」から、松吉益瑠「ダンプカーニバル」の刊行まで、なんと十九冊。刊行点数を絞り込む傾向の見られる近年の沖縄出版界において、これでもかとばかりに出版し続けるそのエネルギーと、ラインナップの良さに改めて驚きを禁じ得ない。

勿論、量だけではない。高橋恵子「暮らしの中の御願」は、ややもすれば形式的になりがちな御願行事に関して、心から感謝の気持ちを持っていればよいという主題で、家庭における行事ごとを書いている。家庭にはなくてはならない一冊であるといえよう。

また、平川宗隆「沖縄のヒージャー文化誌」は、ヒージャーに対する愛情を描き、新垣譲「東京の沖縄人」は、東京で暮らす若者たちの生活ぶりと苦悩を描く好著であった。

私が今年一番印象に残ったのが、安本千夏「潮を開く舟サバニ」(南山舎)。サバニ造りの全行程を追いながら、舟大工・新城康弘氏の生き様や、サバニが、海人(うみんちゅ)の叡知の結晶であることを知らされた。何より、新城氏の言葉が名言揃い。職人として生きる人ならではの世界観を披瀝しており、取材した安本氏の丁寧な文章が独自の世界に誘い込んでくれる。

宮城信勇「石垣方言辞典」(沖縄タイムス社)も今年を代表する一冊といえよう。県産本としては学術的価値の高さを含めて近年稀に見る大著で、特に索引の存在が出色。二十数年をかけて発刊にこぎ着けた宮城氏および、この本に携わった関係者の皆さんの熱意には頭が下がる。手に取った方々なら理解できると思うが、このような本を見ることができることは、読者としての至福であるのではないだろうか。

次に思いつくままに挙げていこう。琉球新報社編「沖縄名作の舞台」(琉球新報社)は、古典から現代ものまでの名作の表舞台と裏舞台を表現しており、作品そのものの世界と、現実の舞台が融合している。実際に手に持ちながら、好きな作品の場所を訪れてみたいと思わせる本であった。

与並岳夫「百十踏揚」(新星出版)も忘れてはならない。琉球新報連載中から、単行本化の要望が高かったと聞いたが、いざ一冊にまとめられると、内容の濃さ、点でしか知らなかった歴史の世界が線となって結びつき、伝説的ともいえる登場人物たちが生き生きと躍動している。じっくりと腰を落ち着けて読みたいと思う本であった。

伊波貢「おきなわ算歩データ」(沖縄タイムス社)も沖縄県民の姿を経済データから解説しており、読みやすい文章がイラストで展開されており、常識として知っている沖縄、全く知らなかった沖縄像を見せてくれた。

また、SHISA編集委員会「シーサーアイランド」も、シーサーの歴史から始まって、各地のシーサー、作り方、伝承等シーサー満載の本で、頼もしく、可愛らしいシーサーに守られている沖縄が楽しめる好著であった。

奥平一「大東島の歩みと暮らし」(ニライ社)も印象に残る。失礼を敢えて書けば、これまであまり知られてこなかった北大東島の歴史や人々の苦難、姿が文章を通して伝わってきた。開拓百年で脚光を浴びた南北大東島だが、まだまだ私たちの知るべき沖縄の姿があることを教えてくれた。

そのような意味では、豊島貞夫「風雪の記録 復帰前・沖縄の教育」(自費出版)も、復帰前の激動の時代を切り取った貴重な写真の数々は、郷愁とともに、残すべき歴史がまだたくさんあることを知らせてくれる。無邪気な子どもたちの表情が写真で記録することの素晴らしさを知らせてくれる。

■国立劇場開場に向け
大湾加奈子・由美子「加奈子メモリアル」(沖縄時事出版)も忘れてはならない一冊。十九歳で夭折した加奈子さんの追悼・遺稿集で、素直に伸び伸びと成長した加奈子さんの生きることへの真摯な姿勢が伝わってくる。今年一番胸を打たれる書であった。

宇良宗健「沖縄の山野草と草もの盆栽」(那覇出版社)、比嘉佑典「沖縄チャンプルー文化創造論」(ゆい出版)も印象に残った。

また、来年は国立劇場おきなわ開館の年。玉城朝薫作「執心鐘入」(琉球新報社)、勝連繁雄「組踊の世界」が上梓されている。

県内版元の健在ぶりを示すものであり、来年の県産本や沖縄本の世界が楽しみである。

(琉球新報社提供)

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