年末回顧 1999(県内・出版)

琉球新報 1999年12月29日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(県産本ネットワーク事務局)

“豊作”印象づけた1年
首里城を救った男(野々村孝夫) 昭和大修理の秘話伝える
ボーダーインク社 「底の深さ」を見せる活動

今年の県内出版物は、二百九十点が沖縄タイムス社の出版文化賞において計上されている。今年の出版物は、昨年より六十九点少ないにも関わらず、昨年より豊作であったような感のする一年であった。それは、出版点数の多寡ではなく、沖縄というさまざまな原石が埋もれている土壌を、丹念に掘り起こしてきた書き手や、版元の努力が結実したということであろうか。それほど、今年は、いろいろな分野の本が出版されてきたということである。

まず、今年一番印象に残ったのが、野々村孝夫「首里城を救った男」(ニライ社)。今や過去と現在をつなぐ象徴として、また、観光の目玉として存在する首里城が再建される以前の、昭和大修理のころの話を丹念に集め、貴重な未公開写真とともに展開している。たくさんの人でにぎわう首里城に、このような隠された秘話があったことを忘れてはならない、また伝えていかなければならないことを如実に教えてくれる本である。

そして、安里進・土肥直美「沖縄人はどこから来たか」(ボーダーインク)は、私たちウチナーンチュの関心事のひとつである“沖縄人の祖先”を、現在の研究の成果と、これまでの流れを総合的に検証し、専門家による対談と論考集でわかりやすく伝えてくれた。このボーダーインクは私たちにいつもさまざまな話題を提供してくれるが、今年も、崎原恒新「八重山ジャンルごと小事典」、糸数貴子・新垣栄・砂川秀樹「窓をあければ」、津波高志「ハングルと唐辛子」、「ワンダー25・26・27号」などを出版し、底の深さを見せてくれた。

また久々にその健在ぶりを見せてくれたのが、月刊沖縄社の佐久田繁「琉球王国の歴史」。歴史の出来事をわかりやすい文章と写真・イラストで、見開きで展開し、初心者からでも抵抗なく入っていけるように編集されている。これまでにないレイアウトで、これからもその力量を見せてほしいものである。

食分野では、安田ゆう子「安田ゆう子の料理」(那覇出版)。西洋・中華・沖縄・家庭料理を見やすく丁寧に編集されている。また、安谷屋純一・翁長周子「ハーブ料理とハーブの本」(沖縄出版)は、ブームという枠を超えて、生活の中に定着しつつあるあハーブを主題に、料理と解説で紹介している。ただ、この老舗の版元二社の今年は、ほかにあまり目立つ活動がなく、来年以降の奮起を期待したいものだ。ほかに沖縄の食を考える会「沖縄・食のハーモニー」(沖縄タイムス社)も、健康の観点から沖縄の人々の食生活を考え、長寿食といわれる食生活と現代人の食生活を対比させ、警鐘を鳴らした意味で印象に残った本であった。

また、すばどぅしの会「私の好きなすばやー物語」(ボーダーインク)と、ベル・エキップ「実践沖縄そば」(ベル・エキップ)は、県民食ともいわれる沖縄そばを主題に、そばの店を取り上げながら、そば好きな人の思いと、そば自体の解説と店の紹介という違った観点から描き出している。県内版元と県外版元の違いがあるとはいえ、この二冊のぶつかりあいは面白く感じさせられた。

民族分野では、小玉正任「石敢當」(琉球新報社)。どこにでも見られる石敢當の知られざるエピソードを中心に、石敢當の徹底した調査の結果をまとめてある。何気なく見かける風景の中にも、いろいろな話が隠されていることに気づかされる本であった。また、名嘉真宜勝「沖縄の人生儀礼と墓」(沖縄文化社)は、人生の通過儀礼である妊娠・誕生・成人・恋愛・結婚・死までをわかりやすい文章で解説している。戦後、沖縄独自の人生儀礼もすっかり様変りしたが、伝統的な儀礼を改めて見直すことができる内容の本である。

芸能・文化分野では、宜保栄治郎「三線の話」(ひるぎ社)。県民の六人に一丁あるといわれるほど親しまれている三線について、名称や伝承などを平易に解き明かしている。三線のことを知るのに絶好の書といえよう。勝連繁雄「わかりやすい歌三線の世界」(ゆい出版)も芸能としての琉歌を中心に誰もが理解できるように解説されている。沖縄の歌の世界の広さと深さを理解することができた。また、石川盛亀「初心者のための琉歌入門」(ニライ社)は、豊かな琉歌の世界を味わいながら、実作へと導いてくれる書である。より身近に琉歌を感じさせてくれる。

ほかに、吉屋金松「実践うちなあぐち教本」(南謡出版)も、私たちが継承し、残していかなければならない方言を文法を中心に展開している。方言の表現力の豊かさが印象に残った。

ビジネス書分野では、伊敷豊「沖縄のオンリーワン企業」(ボーダーインク)。写真集では知念かなみ「子どもが輝く瞬間」(ニライ社)、人物では中根学「人間・普猷」(沖縄タイムス社)、「沖縄人国記」(琉球新報社)なども印象深い本であった。

そして、十月に行われた県産本フェアも今年の特筆すべきことであった。これは、県内出版の健在ぶりをアピールするとともに、読者層の厚さも示してくれた。

(琉球新報社提供)

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