年末回顧 1997(県内・出版)

琉球新報 1997年12月30日 朝刊 文化面 掲載
宮城一春(県産本ネットワーク事務局長)

昨年より全体的に停滞感  執念感じた「沖縄独立宣言」

今年の出版物は、二百八十三点が沖縄タイムス社の出版文化賞において計上されている。今年の出版界は、県内出版元に昨年のような時代を切り取っていくような勢いがあまり感じられず、全体的に停滞感のする年であったように思う。

その中、今年の出版物では、何といっても大山朝常「沖縄独立宣言」(現代書林)を第一に挙げなければならないだろう。大山氏が書いているように、この本は自分の遺書であるという言葉の凄(すご)みもさることながら、独立すべきであった、もしくは今からでもあるべきだという思いのたけが文章から立ち上ってくるようで、執念さえ感じさせられる書であった。理論や理屈も大切だが、思いの深さの大切さも教えられた書であった。

また今年は個人の評伝が目についた年でもあった。名kでも山入端つる著/東恩納寛惇校閲「三味線放浪記」(ニライ社)は、貧困・差別・戦争という逆境を持ち前の明るさと反骨心で乗り越えていく沖縄女性の姿をよく捉(とら)えていて、沖縄の人々の象徴としてもよく語られる三線ひとつで生き抜いていく姿が印象的な書である。

そして、沖縄の人々に最も親しまれている詩人、山之口獏に関する書が多く出版されたのも印象に残る。山之口獏記念会「獏のいる風景」(琉球新報社)は、獏の詩と評伝、それに獏論や獏と親交の深かった人達の随想や、獏賞受賞者たちの作品を掲載したもので、獏の人気の秘密をかいま見ることができる書である。また、高良勉は「僕は文明をかなしんだ」(彌生書房)で、詩人の視点で、獏の詩と人生を組み合わせて獏を語っている。他に比嘉美津子「素顔の伊波普猷」(ニライ社)は、名前の大きさゆえにあまり語られることのなかった伊波の素顔を淡々とした文章で表現し、タイトル通り、素顔の伊波が浮かんでくるようである。

このような評伝の出版は単なる偉人伝とは違った、人物への愛情やさまざまな感情がなければ書けないものであろう。有名無名問わず、魅力的な沖縄の人々をいろいろな角度から見た評伝の出版をこれからも期待したい。

そして今年もまた県外版元の出版物が印象に残った。いつも沖縄にこだわりを持ち、何かを問いかけるような出版物の多い高文研は、平良克之・伊波嘉昭「沖縄やんばる亜熱帯の森」で、沖縄が世界に誇るべき山原の自然を分かりやすい文章と、きれいな写真でまとめている。他に島袋善佑・宮里千里「基地の島から平和のバラを」で、反戦地主の足跡や生き様を描いてみせている。

また、藤清光・中山美鈴「たべる、おきなわ」(エリス)では、沖縄料理を本土に住む人の視点から新しい料理や、伝統の料理をビジュアルに表現し、私たちでは描けない料理の世界を構築した印象に残る本である。そして、喜納昌吉編「激論沖縄『独立』の可能性」(紫翠会出版)で、独立シンポジウムの盛り上がりと独立論の是非を熱く語っている。知念栄喜「ぼくはバクである」(まろうど社)も心に残る書であった。

県内版元に目を向けると、小出版社の健闘が目に付く年でもあった。むぎ社は得意の体裁で湧上元雄・大城秀子「沖縄の聖地」でやさしく御嶽などの聖地を解説し、新城俊昭「琉球沖縄の歴史」で歴史を身近にクイズ形式でまとめている。他に沖縄文化社は安仁屋政昭「沖縄戦のはなし」で、沖縄戦資料を分かりやすく基礎資料としてまとめている。あけぼの出版も本永良夫「反戦地主の源流」で反戦地主の生まれてきた背景や生きざまを紹介している。東洋企画は新城俊昭「高等学校琉球・沖縄史」で高校生向きと銘打ちながらも一般の歴史書としても読みごたえのある本や、喜舎場順「私家版俳諧歳時記―沖縄の四季」で、沖縄の豊かな四季を表現している。

そして、ひるぎ社の新たな活動開始も特筆すべきであろう。新生沖縄文庫として謝花勝一「さしば日和」、高良倉吉「『沖縄』批判序説」を出版した。これからの出版活動を期待したい。

他には沖縄の現実をほのぼのとしたタッチの漫画で表現した仲宗根みいこ「ホテルハイビスカス」、大沢夕志・大沢啓子「南大東島自然ガイドブック」のボーダーインク、仲村優子「黄金言葉」、仲宗根幸市「琉球列島島うた紀行」の琉球新報社、自然関係で深石隆司「沖縄のホタル」、池原貞雄監修「イリオモテヤマネコケイ太飼育日誌」、嵩原建二他「沖縄の帰化動物」の沖縄出版、いれいたかし「沖縄・釣りの民族誌」、筑紫哲也「世・世・世」、大城立裕「光源を求めて」の沖縄タイムス社などが印象に残った。

また、池澤夏樹「沖縄式風力発言」、ゆたかはじめ「自分を輝かせてみませんか」(ボーダーインク)、岩崎魚介「南の島の便り」(沖縄出版)など、本土からの移住者の本も目についた一年であった。

(琉球新報社提供)

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