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大塚勝久さんの追求する生涯のテーマに沿った、欠かすことのできない作品集となるはずだ。

[ 大森一也(写真家・編集者) / 2014.12 ]

2008年07月発行
大塚勝久 著
ルック 刊
A4横変形/120ページ
4,000円(税抜)

西表石垣国立公園『島の原風景』
石垣島・八重山の島々

大塚勝久 著

かつて大塚勝久さんは新聞のインタビューに次のようなことを語っていた。

「無数にあった白い砂浜や海岸線がコンクリートで埋められ、姿を変えた。青い海がいつの間にか、赤土による血の海になった。一体、だれのための、何のための開発だったのか」
「ウチナーが外に自慢できるものは、今、生きている皆さんがつくったものじゃない。先祖が大事に守ってきたもの」
「もう一回、原点に戻るべきですよ。先祖が一体、何を大切にしてきたのか」

今回の写真集『島の原風景』では、その大切にしてきたもののひとつ、八重山の「美しい自然」が全編にわたり収録されている。まるで一枚、一枚に太陽が宿っているかのように生命感にあふれ、海が空が緑が、内側から輝いて見える。先祖が大切にしてきたものは、伝統、文化、生き方そのもの、いろいろあるだろうが、いずれも自然の恩恵なしには成り立たない。自然を大切にし受け継いでいくことで育まれていく。だから今作は、風景写真でまとめられていても「人間性への回帰」、いわゆる「人間って一体、何のために生きているのか。どんなふうに生きていったら一番、人間らしく往生できるのか」という大塚勝久さんの追求する生涯のテーマに沿った、欠かすことのできない作品集となるはずだ。

いや、正確には人物の入った写真が本編の最後に一枚、そしてあとがきのところにも数点だけある。本編の一枚は、しらほ幼稚園の園児たちが先生のあとを一列にくっついていくかわいい写真で、隣のページにあるアヒルの行列の写真と対をなしている。あとがきに添えられたものもいずれも子どもたちの写真だ。さりげないが実はこれこそ、この写真集に込められた最も重要なメッセージなのだろう。かつて「先祖が何を大切にしてきたのか」原点に戻れ、と語った作者は10年後、自らの写真集のあとがきに今度はこう記していた。

「自然は子どもたちからの預かりもの」

今を生きる私たちが、未来の子どもたちから「先祖」と呼ばれる日は、それほど遠い先のことではない。

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